ロビイング、熾烈な情報戦(後篇)(戦略コミュニケーションの温故知新* 第11回)

前回からの続き)

更にアメリカ勢は自主規制の枠そのものを引き下げるべく強力にロビイング活動を展開してきた。

この様な事態の中、従来の情報収集中心のワシントンの活動を見直す必要が出てきた。

一方、現地生産でかなり先行していたホンダにとっては別の課題が浮上してきた。

車を輸入、アメリカの市場で販売するだけの事業であれば、基本的にステークホルダー(利害関係)はユーザーと販売店である。

ところが現地生産を開始すると状況は一変する。

今までとは違うステークホルダーが出現する。

まずは従業員である。生産となると数千単位で数が増える。数が増えるだけではない。

従来の販売スタッフはホワイトカラーだが、工場となるとブルーカラーである。

しかも組合のターゲットになり、組合化のための激しい攻撃に晒される。

そして最大の課題は日本人でないアメリカの工場従業員にホンダの生産方式とその背後にあるホンダ哲学をるしっかりと習得してもらえるかである。

それが担保出来ないと日本製と同等の品質がつくり込めない。

大規模な人数のアメリカ人労働者を使う経験も初めてである。

*「戦略コミュニケーションの温故知新」。このシリーズでは一度、原点回帰という意味で私のコミュニケーションの系譜を振り返り、整理し、そこから新たな発想を得ることが狙いです。コミュニケーションの妙なるところが伝えられれば幸いだと考えます。

~~~~~~~~~~~~~~~筆者経歴~~~~~~~~~~~~~~~~~

田中 慎一
フライシュマン・ヒラード・ジャパン 代表取締役社長

1978年、本田技研工業入社。
83年よりワシントンDCに駐在、米国における政府議会対策、マスコミ対策を担当。1994年~97年にかけ、セガ・エンタープライズの海外事業展開を担当。1997年にフライシュマン・ヒラードに参画し日本オフィスを立ち上げ、代表取締役に就任。日本の戦略コミュニケーション・コンサルタントの第一人者。近著に「オバマ戦略のカラクリ」「破壊者の流儀 不確かな社会を生き抜く”したたかさ”を学ぶ 」(共にアスキー新書)がある。

☆twitterアカウント:@ShinTanaka