戦略コミュニケーションで斬る:日本の政治の風景は変るか?

このシリーズでは、様々な時事的な事象を捉えて、戦略コミュニケーションの視点から分析、戦略コミュニケーションの発想から世の中を見ていきます。(前回の「戦略コミュニケーションで斬る」はこちらから)

民主党政権も、野党第一党の自民党もまったく“ふるわない”。

民主党政権は様々な発信を国民に発信しているが国民がまったく“聞く耳を持たない”。自民党も様々な主張をしているが、“批判するだけと一括される”。

実際に落ち着いてこの16カ月程の民主党政権がやってきたことを見ていくと結構やっている。少なくても“聞く耳”さえあれば、それなりに評価できるところもある。

事務次官会議の廃止、記者会見のオープン化、公共事業の18%削減、行政刷新会議の設置、事業仕分けの実施、密約問題の解明、外交文書公開に関する30年ルールの明確化、地球温暖化対策税の導入などなど、細かく見ていくと政権交代にふさわしい政策を出している。

結果は重要だが、一年ぐらいでしっかりとした結果が出ると考えるならば、それは虫が良すぎる。現実的でない。政権交代によって一国のかたちが変わり、結果が出るまでには相当の時間がかかる。歴史を見れば、このことは一目瞭然である。

最も懸念すべき問題は国民が聞く耳を持たなくなってしまったことである。

その最も大きな原因は政治に対する被害者意識が国民の中で蔓延しているからである。リストラ企業の社内意識改革の仕事をする際に直面する最も大きな課題は社員の中に被害者意識が深く根ざしていることである。「リストラに至ったのは経営の責任だ。社員はその被害者なのだ」といった意識である。

この被害者意識がある限り、新しい経営者が何を発信しようと聞く耳を社員は持たない。企業のリストラ失敗の最も大きな原因がここにある。

企業を再生できるかどうかは社員の被害者意識をどれだけ早く当時者意識にもっていくことができるかどうかなのである。

当事者意識を社員が持ち始めると社員が経営者の背後に見ている“風景”が変わってくる。被害者意識がまだ強いと社員は経営者の背後に「投資家やファンドの指示で経営の失敗のツケを社員に回すことに奔走している姿」を “風景”として見る。

この風景を見ている限り、経営者が何を言おうと社員は聞く耳をもたない。この“風景”を変えられるかが企業再生のカギを握る。これは今の政治にも言える。国民が聞く耳を持たなくなったのは日本の政治の責任である。民主党政権も自民党もその罪は重い。国民に政治に対する被害者意識を植え込んでしまった。

国民が見ている日本の政治の風景は「支持率を上げることに汲々として、受け狙いの発信をしている民主党、与党との協議に頑強に応じず、とにかく解散、解散と連呼、政権奪取を狙う自民党」といった姿である。いずれにしても国民不在の風景なのである。

国民の被害者意識を無くさない限り、国民は引き続き聞く耳を持たない。これが日本の政治をいちだんと混乱に陥れる。

今、日本の政治がやるべきことは国民の被害者意識を当時者意識に変えることである。

~~~~~~~~~~~~~~~筆者経歴~~~~~~~~~~~~~~~~~

田中 慎一
フライシュマン・ヒラード・ジャパン 代表取締役社長

1978年、本田技研工業入社。
83年よりワシントンDCに駐在、米国における政府議会対策、マスコミ対策を担当。1994年~97年にかけ、セガ・エンタープライズの海外事業展開を担当。1997年にフライシュマン・ヒラードに参画し日本オフィスを立ち上げ、代表取締役に就任。日本の戦略コミュニケーション・コンサルタントの第一人者。近著に「オバマ戦略のカラクリ」「破壊者の流儀 不確かな社会を生き抜く”したたかさ”を学ぶ 」(共にアスキー新書)がある。