政権交代のコミュニケーション力学2

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2003年のマニフェスト選挙から始まった自民VS民主のコミュニケーション戦争

政権奪取をかけた“自民VS民主”の戦いは2003年の総選挙に始まる。菅直人率いる民主党と小沢一郎が率いる自由党が合併、自民党に伍して行ける新生民主党が誕生する。そして2003年11月の衆院選で自民・民主両党が初めて真っ向からぶつかる。小泉自民党VS菅民主党である。結果は民主党が40議席を増やし、勝利、2大政党制の枠組みができる。その後、戦場は2004年の参院選に移り、年金未納問題で永田町に激震が走る中で、菅直人民主党代表が年金未納の疑いで辞任、それを継ぐ小沢一郎代表も、同じ問題で辞任、結果として当時幹事長であった岡田克也氏が代表となり、小泉自民党VS岡田民主党の対決となる。大方の予想に反して民主党が善戦、12議席とその議席数を増やし、勝利、参院での足場を固める。小泉自民党VS岡田民主党の第2ラウンドは2005年の総選挙である。結果は郵政民営化を唱えた小泉自民党が296議席を獲得、自民にとっては歴史的大勝となる。安部政権の敵失により、2007年の参院選では小泉自民党VS小沢民主党の対決構図の中で、民主党が109議席を獲得、参院での第一党の立場を確保する。麻生総理は、2009年7月21日に解散、いよいよ麻生自民党VS小沢民主党の対決構図で天下分け目の戦いが始まる。そして最終戦を迎える自民VS 民主のコミュニケーション戦争の結末は民主党が308議席を獲得、歴史的大勝を果たし、政権交代が実現する。

土俵を設定したものが天下を取る、土俵が“命”

選挙では、“土俵(争点)”を先に設定した方が選挙に勝つ。一旦、土俵を相手に設定されてしまうと、その相手の土俵で戦わざるを得なくなる。オバマもマケインに先んじて“Change”という土俵を設定した。結果はオバマの敷いた土俵に乗らざるを得なかったマケインが敗北する。日本でも2003年の衆院選挙では民主党がマニフェストを旗頭に「マニフェストYes or No」を土俵に設定、勝利をものにする。2004年の参院選では「年金一元化Yes or No」を土俵に民主党が自民党にせまり勝利する。反対に、2005年の衆院選では「郵政民営化Yes or No」という土俵を小泉総理が演出、空前の勝利を手にする。2007年の参院選は”何々“選挙と命名されないほど、民主、自民両党とも土俵設定ができず、閣僚の失言、辞任などの自民党の敵失によって、更には地方重視、地上戦重視の小沢路線によって民主党が勝利を収めるといった構図であった。そして、2009年の総選挙は「政権交代Yes or No」という土俵を先に設定した民主党が大勝する。土俵設定のカギは「Yes or No」の二者択一に有権者を追い込むことである。あくまで、その基本構図は2つの選択肢である。3つ以上の選択肢では意味がない。人間は選択肢が3つ以上あると行動が”にぶる“。白か、黒か、AかBか、ぎりぎりのところに追い込まれて、始めて人は選択という行動をとる。あとはその土俵がこちらに支持を獲得する上で優位かどうかを作り込むことである。的確な土俵あるいは争点を作り込むためには、まず、”ある感覚“が必要である。目の前で起こっている様々な事象、一見、なんのつながりもないように見える事象の背後に、それらの事象を結びつける共通する”スジ“を”読み解く感覚“である。”スジ“とは一見、無関係な個々の事象の背後に隠れている”ひとつのつながり“といってもよい。その”つながり“が見えてくると、そこから”ひとつの課題“を抽出、設計することができる。人々が日常目撃しているあらゆる出来事、事件、事象などを”ひとつの課題“で意味づけることである。イラク戦争の泥沼化、医療制度の崩壊、リーマン・ショックに始まる金融危機などの事象を、オバマは”従来の延長線上ではダメなのだ。Changeしなければダメなのだ。“という課題で意味づける。これは選挙戦略コミュニケーションの要となる感覚である。多くの一見つながりのない事象に共通する”ある課題“を想起する感覚である。そしてその”課題“をどう乗り越えていくかという”ストーリー“を構想する感覚でもある。アップルのステイーブン・ジョブが”Connecting the dots”と表現している能力に近い。見える“点”と“点”を見えない“線”で結びつける能力である。“意味づける能力”と言ってもよい。課題とそれを乗り越えるストーリーが直感できれば、あとは科学的に定量、定性調査を行い、その裏づけをとる。具体的な土俵や争点の設計のステージに入る。いろいろな出来事や事件などが、人々の意識の中で“ひとつの課題”によって意味づけられると、そこに土俵ができる。意味づけによって人々の認識は変わり、意識・行動変化の大きな起因となる。“意味づけが人を動かす”コミュニケーション力学の原理・原則である。

選挙戦略コミュニケーションとは

“選挙戦略コミュニケーションとは、何をするのか”とよく聞かれる。選挙戦略コミュニケーションはまず、有権者の潜在的意識の変化を先取りすることから始まる。顕在化している意識を把握し、それをいくら料理しても選挙の勝利に資するようなものは出てこない。まだ誰もが気が付いていない有権者の潜在的意識の変化を把握することが勝利の是非を握る。次は土俵設定である。“土俵”とは英語ではバトル・フィールド(Battle Field)と呼ばれていて、所謂、戦場である。選挙を戦う際、どこを戦場とするかである。戦う“土俵”をどこに設定するかが勝敗を大きく左右する。有権者の潜在的意識変化を察知できれば、こちらにとって最も有利な“土俵”設定が出来る。味方に有利な土俵を先に敷いた方が勝つ。その“土俵”をベースに基本メッセージを創り込む。最後は、基本メッセージを誰に対して、どのようなタイミングで、どのような方法で発信するかを検討する。選挙用語に“地上戦”と“空中戦”という表現がある。“地上戦”とは直接、有権者にアプローチ、支持を訴える方法である。世に言う“どぶ板選挙”である。有権者と直接握手をする、街宣車にのって政策を訴えるなどのやり方である。一方、“空中戦”はテレビなどのマスコミ、広告・宣伝、チラシ、ポスター、政見放送などを通じてメッセージを間接的に媒体経由で伝えていく手法である。いずれにせよ、“地上戦”と“空中戦”が上手く連動し、メッセージ発信の一貫性を保つことがポイントとなる。これが選挙戦略コミュニケーションの概略である。3年の実体験から言えることは、選挙とは戦争である。メッセージというミサイルを双方が撃ちあいながら、有権者の支持を獲得していくコミュニケーションの戦争である。どちらのコミュニケーション力が上回るかが、勝敗に大きく影響する。有権者の潜在的な意識の変化とは潜在的なニーズの変化と言い換えても良い。潜在的ニーズの変化とはまだ有権者自身が意識していないニーズの変化である。有権者の潜在的ニーズの変化が“民意”である。この“民意”を先取りし、その“民意”が求める政策を打ち出すのが政党の役割であり、その“民意”の先取りを競争させるのが二大政党制の効用である。日本ではまだ二大政党制の枠組みができたのが2003年の総選挙以降で、歴史がまだ浅い。二大政党制の大先輩であるアメリカやイギリスなどでは、この“民意”をどう先取りし、土俵を設定、その土俵をベースとした政策を通じて有権者にメッセージを伝え、その支持を取りつけるかに相当に腐心する。選挙戦略コミュニケーションが大きな役割を果している。

なぜ民主党は「政権交代Yes or No」という土俵を設定ができたか。

今回の選挙で、民主党が「政権交代Yes or No」という土俵を設定できたのは、様々な理由が考えられるが、コミュニケーションの視点から見た最も大きな原因は、麻生自民党政権の、“敵失”のメッセージ性である。誤ったメッセージを出し続けたことである。結果として、それは「政権交代Yes or No」という土俵作りを“手助け”した。

(続く)