(書評) 孫子
「孫子」は戦略コミュニケーションの発想を明確に打ち出した人類最古の古典である
「戦略」とは“戦いに勝つための智略”である。
“戦い”に勝つために、コミュニケーションの力をどう駆使するかが戦略コミュニケーションの発想である。
コミュニケーションという行為はもともと「戦う」という行為と密接な関係にある。
戦場で働く「力」は必ずしも武力とは限らない。所詮、「人」対「人」の戦いである。実際に戦場に投入された敵味方双方の将兵や兵士の心理や意識のあり方がその持てる武力以上に戦争の勝敗を決定する。俗に言う心理戦争がモノを言う。人類は有史以来、コミュニケーションを人の心理や意識に影響する力と認識、この「心理戦争」を戦うためにコミュニケーションの力を大いに行使してきた。
戦争の戦略・戦術を説いた兵法書をコミュニケーションの視点から読み解くことは戦略コミュニケーションの発想を培うためには有効である。世に兵法書というと西の「戦争論」(クラウゼビッツ)と東の「孫子」と並び称されている。
しかし、ことコミュニケーションの視点で見ると、やはり「孫子」が群を抜いている。「百戦百勝は善の善なる者に非ざるなり。戦わずして人の兵を屈するは善の善なる者なり。」とコミュニケーションの力で相手を屈することが最善の策であると説いている。
まさに「孫子」は戦うコミュニケーションの発想を明確に打ち出した最初の古典なのである。
「孫子」は今までに多くの専門家が軍事戦略・戦術面だけでなく、企業の戦略・戦術面での分析や考察を加えている。また、人生の処世術的な視点からも多く取り上げられている。しかしながらコミュニケーションという視点から取り上げられている例は殆ど皆無である。しかしながら、「孫子」を読み進めていくと、その殆どの内容がコミュニケーションを力として如何に行使するかを説いており、「戦略コミュニケーション」の原点となる本であると言える。
意識 VS 意識 の戦い、コミュニケーションの力本領発揮!
戦場においてコミュニケーションがその力を発揮するプロセスは極めて明快である。
敵に対してメッセージを撃ち込むことによって相手の心理や意識に働きかけ、味方が戦場において優位なポジショニングを築けるように相手の行動を誘導する。また、メッセージとはミサイルのようなもので、敵側から撃ち込まれてくるメッセージに対しては、迎撃用のメッセージで応戦、味方側の心理や意識への敵側からの影響を阻止する。このように攻撃用メッセージ、迎撃用メッセージを撃ち合う中で、敵の行動を誘導したり、牽制したりしながら徐々に味方に有利な状況を創り出していく。
味方に優位なポジショニングを謀った上で敵に対して最終的に武力攻撃を仕掛ける。戦場においては双方の「武力」対「武力」の構図と同時に優位なポジショニングの確保を競うための目に見えない「意識」対「意識」の戦いの構図がある。実際の攻守を争う戦闘という事象の背後には敵の意識を攻撃する、味方の意識を守るという敵味方双方のコミュニケーション力のぶつかり合いがある。
戦略コミュニケーションの発想から「孫子」を読み解くと4つの特徴が指摘できる
性悪説が戦うコミュニケーションの基本
日本のコミュニケーションの弱さは、その根底に性善説にある。
今や政治も、外交も、ビジネスも性悪説に基づいたコミュニケーションが世界標準になりつつある。
日本のコミュニケーションの根底に性悪説を導入することが、今後求められてくる。特にコミュニケーションを戦う力として使い切るためには、性悪説を前提とした人間観をもつことが必要不可欠である。日本は政治、外交、ビジネスにおいて、更には個人の世界においても今後グローバルな人材競争に晒される中、自らを戦略コミュニケーションの発想で武装することが強く求められる時代になる。「孫子」という世界最古の兵書をコミュニケーションの視点で読み解く現代的な意味がここにある。





