2 月2009

オバマのコミュニケーションは救世主になるか?

「智に働けば角が立つ。情に棹(さお)させば流される。意地を通せば窮屈だ。

兎角(とかく)に人の世は住みにくい。」


夏目漱石の「草枕」の冒頭の言葉である。

「兎角に人の世は住みにくい!」という叫びは夏目漱石の声である。

漱石が生きた明治初期の時代は、どうも神経衰弱になるほどに人との関係に気をもむことが多かったようだ。


江戸時代、「士農工商」という身分制の中で、移動の自由が制限されていた時代から「職業選択と移動の自由」が保証された明治時代へと移る中で、どうも人との関係をつくる「煩わしさ」が飛躍的に増えたようだ。

「職業選択と移動の自由」とは、いいことだとは思うが、一方で、職業がかわる毎に、部署がかわる毎に、住まいがかわる毎に、様々な人々との関係を築き、その都度うまくやっていくことが求められる。

江戸時代のような封建社会の方が案外、人間は関係構築の「煩わしさ」は少なかったかもしれない。出会う人の数も制限されており、シキタリ通りにやっていれば人間関係もうまくいった。

転じて、我々が住む現代社会を見ると、どうも人との関係にともなう「煩わしさ」は漱石の時代と比べると幾何級数的に、間違いなく増大している。

心療内科が流行るのも無理はない。「いじめ」が流行するのも関係をつくる「煩わしさ」への免疫性が低下している兆候であろう。

今や、一人の人間が一生のうちに出会う人の数は、人類が経験したことのない未知の領域に間違いなく突入している。

更に、この状況を加速しているのが、多様性の問題である。これから世界はますます多様性のあるものになってくる。


多様性というと「アメリカだ!」と思いがちだが、とんでもない、同じ日本人の顔をしていても、価値観、モノの見方、考え方、大きく多様化している。

多様性は様々な個性や才能をもった人々が出てくることによって、「イノベーション」や「技術革新」を生むが、一方で、様々な個性、考え方の「対立」や「分裂」の温床になる。

関係性の「煩わしさ」(ストレスといってもいい)の元凶になる。


「私たちはストレスの海で漁をしている漁師のようなものだ。ストレスの波しぶきをかぶらないで仕事はできない。その中でどう元気に生きていくか。問題はそこにある。」

作家の五木寛之の言葉である。ここで重要なのは「どう元気にいきていくか」ということであるが、どうも自分には前述したように「オバマ現象」に一つのヒントがあるように思えてならない。


多様性のある社会であるが故に、「対立」と「分裂」に苦しんでいたアメリカ人をあれほどまでに「元気づけた」オバマのコミュニケーション力とは何なのか。その方程式を解いていきたい。

今、オバマが面白い!

「オバマ現象」とは何か。

老若男女を問わず、今まで動かなかった人々が突然オバマのコミュニケーションによって動き出したことである。

オバマは誰もが成し得なかった

サイレント・マジョリティー(Silent Majority)

を動かした。

別の表現を借りれば、その多様性ゆえに、「対立」や「分裂」を繰り返すアメリカ社会の中で、価値観の違い、世代の違い、人種の違いを乗り越えて、多くのアメリカ人の心や意識をひとつにした。

これは結構、凄いことである。

アメリカの社会をよく「トスド・サラダ(Tossed Salad)」のようなものに喩えられる。いろいろな野菜を器に投げ入れてかき回し、作るサラダのような社会といった意味合いであり、様々な人種、文化、宗教、習慣、言語が混ぜ合わさった社会がアメリカである。

それは正に、「多様性」の坩堝(るつぼ)。

「多様性」の実験室とでも言えるアメリカの意識をひとつにすることにオバマは成功した。

オバマのコミュニケーションが凄いところはもうひとつある。

多様性のある社会であるが故に、「対立」と「分裂」に苦しんでいたアメリカ人の意識をあれほどまでに「元気づけた」ことである。

多様性のある社会とは決して楽な社会ではない。様々な価値観、考え方、個性のぶつかり合う世界である。その中から新しい価値を生み出していく一方で、対立や分裂をいかに回避していくかが大きな課題となる。

その中で、人々の心や意識をひとつに保ち、元気づけることは至難の業である。
これを成し遂げたオバマのコミュニケーションにアメリカ人だけでなく、世界が驚いた。

このオバマのコミュニケーション力とは何なのか。その本質を探りたいという欲求が高まった。それは昨年の10月のことであった。

「多様性」は避けては通れない。
現代人のすべてが、この「多様性」という“もののけ”としっかりと対峙することが求められる。

個人だけではない、企業も、国も。

「多様性」という“もののけ”に対して身を守るだけでなく、それを利用、活用する武器が必要であり、それが新たなコミュニケーションというチカラである。

この新たなコミュニケーションのチカラを見極めたい。
オバマ現象にそのヒントは隠されている。

これからも、オバマが面白い!しばらく、オバマに注目したい。